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南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

∬11月―キノコ奮戦記(1)いざ松茸! 


《11月―キノコ奮戦記》~2002年11月の記録

 ∬第1話 いざ松茸!

4日間続いた雨が上がり、今日は空一面懐かしい青空が広がった。
よし、今日こそは!掃除や後片付けも早々に、身支度を整え車で出陣。
脳裏をよぎるのは松茸の姿と香り。
そう、ここアンタルヤ近郊では松茸が採れる「らしい」のだ。

初めて松茸の話を聞いたのは、約1ヶ月前のこと。我が家に泊まった友人を案内してアンタルヤの南、ケメル方面に車を走らせていた時、友人がなにげなく口にした言葉。
「あら、アカマツがあるのね。そういえば、以前アンタルヤで松茸が採れるんだといって、どこかの大手商社が輸入しようとしたのだけれど、ひょっとしたらこの辺りかしら」と。
その時は、「松茸」という響きに惹かれることもなく、強いていえば、世界中どこからでも食材を見つけてくる日本の総合商社の飽くことなき熱意に感心させられただけだった。

ところが、つい先週末のこと。同じアンタルヤに住む日本人の集まりで、つい前日採れたという松茸に実際にお目にかかったのだ。笠が開ききって丈も短いものの、鼻に近づけて匂いを嗅いでみれば、間違いなく懐かしく芳しい松茸の香り!
採られた方は、少しおすそ分けをと仰って一皿分用意してくださったのだが、車があるので自分たちで採りに行きましょうと辞退し、他の方に譲ったのだった。

さあ、そう宣言したからには実行あるのみ。やると決まれば人間俄然欲が出てくるもの。自分も一攫千金ならぬ「袋一杯の松茸」をと、降ったり止んだりという不安定な天候にも関わらず、「松茸探しドライブ」へと出掛けたのだった。
問題は、松茸の生える松林がどこにあるか、私たちが知らないことにあった。プライドが邪魔してか、場所を聞けずに帰ってきたのだが、さすがに盲滅法というわけにもいくまい。
狩猟用品の店ならと、当たりをつけ、「キノコの採れる松林」を訊ねると、案の定簡単に教えてくれた。
アンタルヤの北西へ車で約20分という、松林の広がる地区だという。
アンタルヤ周辺ではどこでも松林を見かけるが、松茸ならアカマツ林でなければ。
不安半分、辿り着いた松林は、やはりクロマツばかりのようだった。

せっかく来たのだから、食べられるキノコならなんでもいいと、当初の目的は脇に置き、ワクワクしながら朽ちて重なった松葉の上に目を走らせた。
3日ほど雨が続いたとはいえ、やはりまだまだ時期尚早のようで、小さいクリーム色のキノコが2つ3つ。毒キノコとして子供の頃習ったタマゴテングタケを平べったくしたようなキノコだ。食べられるものかどうかは帰り道で人に聞くとして、とりあえず袋へ。
場所を変え、今度は本道から奥まっているため人がなかなか入りそうもない松林へ。探してみると、先程と同じキノコがあちらにもこちらにも。これから大きく育ちそうな赤ちゃんキノコが落ちた松葉の隙間からたくさん生え始めているのが見えた。
3cmほどに開いたものばかり選りながら採っていくと、たった10本ほどにしかならなかったが、今日は小手調べ。キノコ狩りの面白さを新発見した私は、夫と一緒になって子供のようにキノコ探しに夢中になった。

もう少し先の松林まで足を伸ばそうと車を進めると、道端で野菜を売る農家の人を見つけた。袋の中のキノコを見せると、やっぱり。苦笑しながら頭を横に振っている。
この辺りで採れる食用キノコは直径も約10cmと大きく、しかも厚みがあるのだそうだ。
その人にあらためて教わった松林はどうやら国有のようで、入り口に管理所もあったが、誰でも自由に入れるもののようだった。
管理人は、「昨日皆んなやって来て、たくさん採って帰って行ったよ」と言った。午前中に雨の上がった日曜の午後、行楽を兼ねてたくさんの人がキノコ狩りにやって来たとの話だった。

やはりキノコ狩りに来たらしい1~2台の車とすれ違いながら、ぬかるんだ道を奥まで進んでいくと、1台の車が脇に停めてあった。近くに腰を下ろして休憩している青年の足元にはバケツ。中を見せてもらうと、聞いたとおり、直径は小さいもので7~8cm、大きいものになると10cmを越える、名も知らぬオレンジ色の大きなキノコがほぼバケツ一杯に入っていた。
パザールで売るために一家で朝の5時からやって来て、くまなく歩き回ってようやくそれだけ採れたというのだ。4kgほどはあるだろうか。10ミリオンで売る予定だけど、全部買ってくれるなら7ミリオンにすると言う。(当時、1ミリオン=約70円)
キノコ好きな夫は全部買おうか、と私の方を振り向いて同意を求めたが、私はすげなく答えた。
「そんなに買ってどうするの?それに、自分たちで採りに来たのに、諦めて買って帰るの?」
私はすでに手ぶらでは帰れない、という気になっていた。
「僕はまだここにいるから、欲しかったら来て」という青年の声を背に、私たちは松林の中に分け入って行った。

(つづく)

∬第2話 キノコとの格闘



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